ホタルの宿
6月12日の例会「源氏ボタルの夕べ」、期待した鎌倉中央公園のホタルは残念ながら、10指にも満たない数のお出ましであった。公園入口の獅子岩付近で待ち受けていた山崎の谷戸を守る会の代表相川さんは、「捕虫網を持って子供と文字通りホタル狩に来る若いお父さんがいますが、ここのホタルは養殖したものではありません。1,000の卵から成虫になるものは僅か3灯、しかも一週間の命です。最盛期でも30灯程度ですから、絶滅の危機にあることはお分かりでしょう」とホタル鑑賞に先立ち、現在、山崎の谷戸がおかれている環境についての説明があった。
相川さんは誠実なご婦人であったから、千三つの世界なんてのジョークではなかろうが、すでにここのホタルは金山を掘り当てるに等しい確率なのである。そして、ホタルは匹と数えるのではなく灯と数えることを知った。まさに風前の灯火である。
ホタル様がお出ましになるのは7時半から8時前後、すでにその時間ではあったが、100人を超す観客に驚いたご様子である。時々、すーっと、現れると歓声が挙がる。「静かに」と誰かが制する。「子供の頃、ホタルは沢山いましたね」「捕って来て蚊帳の中に放しましたね」、なんての会話があちこちで交わされる。「40年振りにホタルを観て幼き日のことを思い出し感激しました」というご婦人、暗闇でお年の頃は判らないが、どんな想い出があったのであろうか。
そういう自分、最後にホタルを観たのは中学1年の頃、50年も前のことだ。地元の高校を卒業し東京に出て45年、昨年リタイアし、こうやってホタルを観ているのだ。
実は昨年、ホタルを観ている。4月から家に居るようになって、女房との会話が多くなった。「荒井沢市民の森でホタルが観られるそうよ」、こちらはリタイアしたばかり、ご近所の情報はすべて女房である。「じゃぁ、行って見ようか」ということになった。荒井沢市民の森は我が家から、歩いて20分ほどの距離である。ホタルが出ると聞きつけ、ジイサン、バアサンが孫を連れてやって来て、昔話やホタルの習性などを話している。こちらもいい光景であった。
谷戸田の池のベンチに座ってホタルが乱舞するのをじっと観ていると、毎日、観察に来ているという老人(こちらも老人なのだが)話しかけて来た。「源氏ボタルが終わると平家ボタルが出る。平家ボタルは小さく光も小さい。光を放ち上の方を飛んでいるのが雄で雌は光を出さない。ホタルが乱舞する姿を源平合戦と言っているが、源氏ボタルと平家ボタルとは交尾しないから間違いだ」など縷々説明してくれた。礼を述べ、帰りますと言ったら、「私も帰る」と言ってご一緒した。その老人、こちらが聞きもしない身の上話をした。家では相手にされず、おしゃべり相手が欲しくて毎夜、ホタルを観に来ているような話しであった。帰宅後、ホタルの季節が終わった後、身の置き場所はどうなるのかなぁ、と女房と話した。
「中央公園のホタルはどうでしたか」と帰宅するなり女房が訊ねた。「ちらほら」「そう言えば、荒井沢のホタルどうかしら」「行って観ようか」ということになった。自由な身になると決断と行動は意のままである。2月から藤沢に引越したので、今度は車である。原宿六浦線、鎌倉女子大の先、ファミレス華屋与平の角を右折、直進すると平和ゴルフというショートコースのゴルフ場に出る。ここの駐車場に止め、左に入ると、もう蛍狩りの人が沢山来ていた。昨夜は雨、今日は晴れ、むしむしするような状態とあって、ホタル様も沢山のお出まし、最初、数を数えたが、50灯を超えたところで止めた。観ごたえがあった。昨年、座ったベンチはすでに占領され、10人程の老人グループが酒盛りをし騒いでいた。いただけません。「昨年の説明魔のオジサン見当たりませんね」と女房が言った。実は私も気になっていたところだった。