連載

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− 旅支度 −
黒江 輝雄
 小学生の頃、遠足に行く前の晩は落ち着かなくて、部屋の中をうろうろしたり夜遅くまで起きていて、母親から「明日の朝は早いのだから、早く寝なさい。」といわれて布団には入ったものの目がさえて、いつまでも寝られなかったことを思い出します。
枕元には、リュックと洋服、それに新しくおろした靴下を取り揃えていました。
前の日に学校から配られた、ガリ版ずりの遠足案内と注意事項を何回も読み返したものです。・・・

 小学校の頃にあって、今の私にないものがあります。
それは“てるてる坊主”です。明日の天気が気掛かりで、何回も空を見上げたものです。
そんな時、母親にすすめられてあわてて、てるてる坊主を作りました。

 それから半世紀たちました。
歩き方を明日に控えた前の晩は、妙にそわそわして今でも小学生時代と殆ど変わりません。我ながらおかしい限りです。
 今の私にあって、小学生の頃にはなかったもの、それは“パソコン”です。
明日の天気が気になりキーをトントンと叩くと、たまには「晴れのち曇り、やがて雨」とか「雨の確率50%、曇りのち晴れ」
などといった気になる答えが返ってくることがあります。
 “歩き方”とは“大人の遠足”と言い換えても良い面があるような気がします。
遠足の時は母親に見送られて出掛けました。
歩き方の今は、母親代わりの家内に送られて出発しています。