寄り道・道草 28
境川の左岸を江ノ島方面へ下って歩くと新屋敷橋に出る。左に曲がると片瀬山住宅地であるが、横断して少し先、左角に古い石造りの「岩屋不動明王入口」の道標が建っている。路地を左折して3〜4分歩くと左手に岩屋不動がある。石段を11段上がり、高さ2mほどの小さな鳥居(嘉永六年の刻:1852)を潜ると、藤沢市教育委員会が建てた案内板が立っている。この案内板は「岩谷不動(快祐上人入定窟)」とある。
これによると正確には石籠山不動尊(いしごめやま)という。ここはかって、弘法大師が穴居修行したところであると伝えられ,その後、元禄8年(1695)に快祐上人(かいゆう)が石籠山救法教寺を開き、不動尊を安置したといわれる。快祐上人は寛文3年(1663),片瀬の生まれ、手広の青蓮寺、江戸の湯島で修行した後、再びここに戻って不動尊を開き、延享元年(1745)、この岩窟に入り、82才で即身成仏したと伝えられている。後に、法教寺は廃寺になったが、亨和2年(1802)、に泉蔵寺の別当となったという。
境内には右側から扇状に25個の新しい石灯篭が並んでいる。蝋燭を灯すのではなく電灯である。右側背後は切り立った岩壁となっているが、左側は岩壁が崩れ、わずかに残る平らなスペースだけが、昔、やぐらがあったことを示している。一つだけ、大人一人、腰をかがめて入ることができるほどのやぐらがある。
ところで、ご本尊の不動明王はどこにおわしますか、というと、巌不動と書かれたコンクリート建物の中、奥にやぐらがあり、石造りの不動尊像が安置されている。真っ暗でご本尊を拝することはできないが、右壁の電源スイッチを入れると明かりがつき、扇風機が廻る。お線香を上げるには自動販売機で求める。
今年の夏はとりわけ酷暑であったが、ここだけは、岩壁から水が滲み出て、静寂で清涼スポットであった。この付近一帯には、やぐら跡が多数発見されているということであるが、その大部分は崩れ落ちてしまい、また私有地内で立ち入ることはできない。
案内によると、毎年1月28日の初不動には赤い布を結びつけた竹が道筋に立てられるというから、立ち寄ってみるのもよかろう。
岩屋、岩谷、巌、いずれも「いわや」であるが、広辞苑によれば岩谷という表記はなく岩屋であるので、古い道標どおり岩屋とした。(11・11 八柳)