第9話
競歩の歴史 (2)

江尻 忠正

長距離でスピードを競う競歩は、競技中同一スタイルで歩行するため、競技を見る機会の少ない国内では人達には「お尻を振り振り歩くアヒル歩きの真似」のように異様なスタイルに映ると思われるのだろうと思っています。

競歩競技の歴史には色々な説があり定かではありませんが、

* 古くローマ時代の軍事訓練や遠征地での隊間の娯楽競技が発展したもの。
* 1750年頃、英国の貴族の間で行われた「散歩」が競技化されたもの。

* 王族貴族の間で、居城から砦の間の連絡に用いた健脚をプデストリアン(歩行者)  と称したのが起源であるとか、いくつも説がありますが、ヨーロッパが発祥の地であるのは間違いなさそうです。 

歩くスタイルも民族や国柄で異なり、40数年前外国遠征の時にヨーロッパ各国の歩行スタイル特徴の違いに大変驚きました。イタリア(軍隊の遠征先での娯楽)、イギリス(貴族の遊び)、北欧(バイキング)と歩行者を見ながら説明をうけ納得したのが思い出されます。

競歩競技が初めてオリンピック種目となったのは、約100年前の1908年第4回ロンドン大会でした。その時の陸上競技の種目は、男子競技として3,500m競歩、10マイル競歩でした。その後、1932年ロンドン大会から50km競歩が、1966年メルボルン大会から20km競歩が追加され、50km競歩・20km競歩の2種目がオリンピック種目となりました。現在のオリンピック種目は、男子 2種目(50km競歩、20km競歩) 女子 1種目(20km競歩)で競われています。過去には最も過酷な競技として女子の競技は行われませんでしたが、1992年のバルセロナ大会に10km競歩(優勝タイム44320)が採用され、現在のように男女の競歩競技が行われるようになりました。

2004年アテネ大会の優勝記録は

     男子 50km競歩 3 時間3846    20km競歩=1時間1940

                女子  20km競歩 1時間2912

でしたが、記録は常に更新されている状態で世界記録は男子50km競歩で約10分、20km競歩で5分程度、アテネの記録より速いと思われます。

記録は気象条件や競技場所の条件により大きく左右されるため記録重視の競技会、と勝負優先の競技会があり記録のみが優先することはありません。陸上競技場のトラックで競技する場合と道路で競技する場合で距離表示が異なり、例えばトラック競技では10,000mと表示されますが、道路競技では10kmと表示され、新記録が出た時はトラックでは新記録、道路では最高記録と表示されることになっています。競歩競技スピードは、男子競歩で平均時速15km(24/100m) 女子競歩で13.5km(26/100m)以上のスピードで競技することになり、如何に効率よい歩きが出来るかが選手に課せられた課題と云えます。

記録は競技条件で大きく左右されますが、年々、情報、道路状況、トレーニング方法,靴,食事など改善が進み記録も格段に速くなり「走る競技」と見分けがつきにくくなり、競歩競技審判員の責務は重大になっているといえます。               (続く)