寄り道・道草 46

龍口寺の五重塔と仏舎利塔

 龍口寺の青銅色をした五重塔と真っ白なドームの仏舎利塔は遠くから眺めることができる。本堂にお参りすることがあっても、五重塔と仏舎利塔まで行く人は少ない。五重塔と仏舎利塔は、通常、本堂左手の石段から登るが、時計と反対回りに先に五重塔を訪れた方が緩く楽なようである。ゆっくり登って五重塔までは3〜4分、仏舎利塔までは10分ほどであろうか。

 龍口寺の案内書によると五重塔は、明治43 (1910)、棟梁竹中藤右衛門が建てたといわれ、総けやき造りで、釘一本も使わない組み込み式である。神奈川県唯一の本式五重塔で本堂とともに「神奈川県建築物百選」に選定されている。この塔は日蓮の法難をしのび、報恩供養のために建てられたもので、塔内には仏祖三宝尊が安置されている。
五重塔の先に七面堂、その先、右手からドームの仏舎利塔に登る道がある。仏舎利塔は、昭和45(1970)に日蓮上人法難700年を記念して建立されたものである。ここからの江ノ島、相模湾の眺望は素晴らしい。

 仏教における塔は、お釈迦様の遺骨をお祀りするためのものであった。その形は最上部の「相輪」の部分に当る。五重の楼閣は仏教が中国に伝わってから加えられた。538年仏教伝来、世界最古の木造建築として有名な奈良法隆寺の五重塔は朝鮮式の様式を最もよく残している塔といわれる。

 幸田露伴の小説「五重塔」にもあるが、不思議なことに五重塔が台風や地震で倒壊した例はない。その理由の一つは「積み上げ構造」という建築方式にあるといわれている。積み上げ構造とは、各重ごとに軸部や軒を積み上げ、それらを鉛筆のキャップを重ねるように順々に積み上げていく方式である。木材同士の特殊な切り組方法によって接合されていて、堅固に結合していないため「柔構造」である。

 建物の揺れによって、地震力を吸収させる柔構造の理論は、超高層ビルの建築に採用されている。伝統的な木造建築の知恵が最先端の建築技術に活かされているわけである。

(参考資料:龍口寺HP,案内書、上田篤「五重の塔はなぜ倒れないか」(新潮社)

 追記:寄り道45「龍口寺」の余談で桟敷尼のことを書きましたが、龍口寺のパンフレットによると「9月12日夜6時と13日午前0時の大法要には、日蓮聖人が龍の口へ連行される途次、鎌倉の桟敷尼が、鍋蓋に胡麻牡丹餅をのせて供養したという故事にちなみ、堂内で参詣者すべてにゆきわたる程の牡丹餅が撒かれる。・・・」とあります。                        
                            (3・3 八柳 修之)