寄り道・道草 52




 リバーサイドコース、藤沢駅から遊行寺通りを遊行寺の方へ向かって歩くと、やがて467号線と交差する。交差点ロータリーには市指定の文化財、杉山検校が建てた「江ノ島弁財天道標」がある。467号線には出ず、左側の朝日新聞販売店前の道を進む。この道はかつて旧道街道、遊行寺から江ノ島神社に通じる江ノ島道であった。150mほど先、左手に土蔵のある木造家屋だけが、わずかに往時を偲ばせている。以前は米穀店であった榎本家と土蔵である。

現在、ここの地名は藤沢市藤沢であるが、昔、この辺りを蔵前といった。江戸時代に年貢米を納入する蔵があったために付けられた名前であるという。「風土記稿」には、「御蔵前この所に郷蔵二箇所」あったと記録されているというから、榎本家はその一軒、由緒あるお家であろう。

江戸時代、境川を使って江戸への年貢米、麦、木材が五百石船で運搬されたというから、往時はさぞ賑わったことであろう。中村外科の南側にある蔵前稲荷社が、この地がかつて蔵前という名であったことをわずかに留めている。

さて、前に戻って榎本家の家屋であるが、いつの頃からか分からぬが、お店は閉じられたままで中をうかがい知ることはできなかった。
10月中ごろから、家屋は画廊「蔵まえギャラリー」として生まれ変わっていた。
経営者の経歴やコンセプトについては、1026日付の朝日新聞湘南版に掲載されていたが、単に画廊としてではなく絵描きの拠点としたいということであった。

木造の建物は1929年(昭和4年)の総二階建ての建築、築77年、人間で言えば喜寿であるが、良質な木材が使われていることは、素人目にもよく分かる。中へ入ると、土間の天井が高いのに驚く。一階は帳場だった畳がある所と土間、一間あまりの大きな神棚があり、その下にある木戸を開けると蔵へ、二間続きの座敷、二階には上がることはできないが洋室になっているという。

絵に興味はなくとも、古い木造建築物として、一度立ち寄って覗いて見る価値はあろう。                                                               
                             (
1028 八柳)