連載
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― 昔ゲートル、今スニーカー―

黒江 輝雄
 たしか小学校の5年生のころ、軍事教練や行軍のまねごとがあり2、3度ゲートルをして登校したことを記憶しています。
夏場だったのに長ズボンをはいて、そのうえに慣れないゲートルを何回もやり直しながらしていきました。
そのゲートルは、母親が家にあったあり合わせの布地で、苦心しながら作ってくれたものでした。ふわっとした仕上がりだったので、ピシッと巻けなかったことを憶えています。
しかも色合いが白色で、他の友達のようにカーキ色のものではありませんでした。子供心にとても気恥ずかしい思いをしたことが忘れられません。
ゲートルが歩き方にどのような効用があるのか知りませんが、その当時はかっこよく思っていました。
 百科事典ではゲートルを次のように説明しています。「西洋式の巻脚絆のこと。陸軍軍人が用いたものであるが、のちには青年団、登山家,土工などの作業場の現場監督などが脚絆のかわりに用いた。その理由は、巻き方によって脚絆より自由で便利なためである。・ ・・満州事変後は一般家庭にも普及、男子の生活必需品となった。・・・戦後は、一般大衆の間でもほとんど利用されていない。」ゲートルとはもともとフランス語ですから、明治時代に西洋文明を取り入れて近代化をすすめていた頃の文化遺産でしょう。

 兵隊さんが履いていた牛革で編上げの軍靴は、子供心にもいかにも重たくて履きずらく歩きにくそうに思えました。時代が変わって、いまではゲートルを巻いたスタイルや軍靴は、戦争をテーマにした映画やドラマの中でしか見られない“時代物”となってしまいました。

 履物といえば、今はスニーカーの時代でしょう。言葉の響きも、いかにも軽やかでスピード感があります。
念のため百科事典を見てみたら、簡単に「スニーカーとはゴム底の運動靴」とだけしか説明はありませんでした。
 歩き方に必要で身に付けるものはいろいろありますが、なかでも大事なのは「草鞋」でしょう。昔は、長旅に出るときは、草鞋を何足も履きつぶしたものです。今ではそんなことはありませんが、今も昔もかわらないのは、自分の足に合わない履物だとマメができたり、つぶれたりすることです。こうなると歩こうにも歩けません。
他の持ち物にも気配りが必要でしょうが、まず足元に気を使えというところでしょうか。
                                                 以 上