連載


 ― 交通事故 (後編)   ―
黒江 輝雄
  私が毎朝歩いていた墓園の周囲は高い鉄柵で囲まれていました。通る度に約20匹ほどの犬達が一斉に吠え立てる所がありました。鉄柵ごしに敵意をむき出しにしたような吠えかたでなんともいやな思いがしていました。墓園に隣接していた車の解体業者の敷地内で飼われていた犬達です。

 全くの突然でした、一人で散歩していた私にその犬達が襲いかかってきたのです。まわりには誰もいませんでした。はじめはなにが起こったのかわかりませんでしたが、凶暴さをむきだしにして私をぐるっととり囲んで吠えたててきました。初夏の頃で半ズボンに半袖シャツだった私は恐怖にかられながら必死に逃げまどいました。素手だったので無我夢中でかぶっていた帽子で振り払いながらなんども転げまわりました。両足は打撲と擦り傷による出血で真っ赤になりました。
現場から300メートルほどの所に事務所があります。生憎早朝なのでまだ開いていませんでした。やっとの思いでたどり着きそばにあった公衆電話ボックスから110番して助けを求めました。
 間もなくして刑事さん2人が来てくれました。・・・
   ・・・以上が<交通事故>の顛末です。

 これには後日談があります。
刑事さんには、まず医者に行って治療をするようにとすすめられ、診断書をもらっておくようにといわれました。そして被害届けを出し、場合によっては刑事告訴になるかもしれないよともいわれました。医者の診断書には全治3週間と書かれていました。
数日後、事情聴取のために警察署に出頭して一部始終を説明しました。薄暗い取調室みたいなところに通されました。犯罪をおかした人はきっとこのような部屋で取り調べをうけるのだろうと思いました。
後でわかったことですが、この業者は無類の犬好きで野良犬を集めては、自分の敷地内で勝手に飼っていて、保健所への登録届出も狂犬病の予防注射も受けず首輪もなくて犬達は野犬同然の集団といった状態だったようです。

 そうこうしているうちに、所轄の警察署管内で新聞ダネにもなった凶悪な殺人事件が発生しました。<交通事故>どころではなくなって、署内は大童になりました。
再度警察からのすすめもあり示談ということで一件落着しました。・・・・

 昔から「一歩外に出ると七人の敵がいると思え」という教えがあるようです。
天下の公道を歩いていて、いつ何時<交通事故>という災難に遭うかもしれません。
    <交通事故>にはくれぐれも ご用心! ご用心!