紀行文

エベレスト街道を歩く(1)
池 内 淑 皓
パクディンには13時20分に到着。日はまだ高いので、この先ベンガルかチュモアまで足を伸ばそうかと思ったけれど、神さんが疲れたと言うのであきらめた。パクディン集落入口の鉄橋を渡り、正面の大きなロッジに泊まることにしたトイレは協同であるが宿泊代はツインでRs150と安かった。この街道での宿泊は、泊まり代は安くして、食事代で収支を調整していると云っている。
 テラスでビールでも飲みながら街道を行き交う旅人達をぼんやり眺める。日本人は誰も来なかった。

エベレスト ビールは旨い (Rs300) パクディンの集落(後方の山はクンデピーク4、250m)

 日が山の端に隠れると急に寒くなる、何しろ北アルプスの稜線と同じ高度にいるのだから当たり前、更に切り立った山々が両側に迫り、その狭隘な谷間にこの集落がある。私はストーブのある食堂に陣取って、日記と今後の予定を確認する、宿泊者はアメリカ人が60%位、残りはヨーロッパ人でアジア人は私達と静岡の人一人だけであった。静岡の方は島田の在で、娘さんがネパール旅行中に知り合い結婚したと言うネパール人の婿さんを連れて来ていた。里帰りするのだと言う、なかなか良い青年だった。
 明日はナムチェバザール(3、440m)まで登りであるから、ロッジの親父に頼んでポーターを一人頼んだ、怖い兄ちゃんは嫌だから女性のポーターを希望したら、いないと言う、その代わり14才の少年が来てくれた。
明日は10月30日(土)であるが学校は休みで、日曜日が学校だという。この国は土曜日が休日で、日曜日は平日なのだ。
ナムチェまで一日行程のポーター費用はRs1000(日本円1,200円)。私と神さんのリックサックを持ってくれる、30kgの重さまではOKだという。ここでの千ルピアは彼の家にとって貴重な現金収入となる。大きな荷物となれば、”ドコ”と言う背負い籠が必要なのだが、彼は大丈夫だと言ってくれた。
 夕食はチベット料理の”ミックスチョウメン”(日本の焼きそばみたい)とネパール茶で合計Rs400。朝は、トーストと卵焼と茶。このロッジに落としたお金は総計Rs1、000。

ミックスチョウメン(日本の焼きそば) 私達の荷物を持ってくれた パールパッライ 君
パクディンからナムチェバザールへの地図
  10月30日(土)晴れ、8時に出発。荷物が無いので楽だ、9:15ベンガル着、バッティー(掛茶屋)でネパール茶を飲む。ネパール茶はものすごく甘い、砂糖抜きだ!と云っても入っている。
ポーターの「パールパッライ」君はさすがに山の子だけあって足が速い。こっちは高山病対策を考えながらユックリ、ユックリ歩く(ネパール語で”ビスタリー、ビスタリー”)。モンジョの集落入口で二回目のTIMSチェックを受けて出発する。 最後の集落ジョサレで昼食のアップルパイを購入する、ここから先はナムチェまで食堂も水も無い。
 ドウード川原沿いに歩く、日差は暖かくTシャツ一枚で良いくらいだ、水は冷たく氷河の雪解け水。ドウード川、ボーテ川の合流点に掛かる吊り橋を渡ると、ナムチェまで590mの直登が始まる。ヤクも馬も(体調の悪い人は馬に乗って下山出来る)荷担ぎの人達も等しく喘ぎながら登降する。道端の高山植物も目に入らない、ひたすら登る。
 トップダラと言われる山の背に出ると、初めて木の間越にエベレスト山が見える。念願のエベレストを見る旅感激の一瞬だ。ここで一呼吸、ビューポイントの良いところでみかんを売っているチベット人がいる。一つ買う(Rs50)、簡単に“みかん”と云っても、ここは3千mの尾根筋である、彼女達ははるか下の部落から持ってきたに違いない。大変な努力だと思う。
     
ドウート川に掛かる最後の吊り橋 木の間越にエベレストレスト山がチラリと見える(最奧のピーク)

 ここから先は登りも緩やかになり、もう一息頑張ると木の間越に集落が見えて来る、最後のチェックポイントで入山チェックを受け、山の端を回り込むように道をたどると、ナムチェバザールの集落に到達する。標高3,440m、富士山の9合目付近なのだ。
 集落入口のチョルテン(仏塔)にお参りして、はるばる一日かかりで荷物を運んでくれたパールパッライ君とお別れだ。彼はここから朝出発したパクディンまで帰ると言う、明日学校があるからだって。夜7時までには家に帰れるから大丈夫と云う、寒いといけないから僕の手袋と、帰路暖かいお茶と食事が出来るようにお小遣いを渡して別れた。
 ナムチェの集落は、すり鉢状になった山腹に石組みの家が階段状に建ち並んでいる。ここはエベレスト山麓クーンブ地方シェルパ族の拠点となっており、銀行、郵便局、両替商、旅行会社(航空券取り扱い、周辺トレッキング)、パン屋さん、レストラン、登山用品店、お土産屋さんと何でもある。世界中のトレッカーが必ずここに滞在して高所対策をし、装備を整え、食料を調達した後奥地を目指す。
 私達の泊まるホテルは、インターネットで予約した”シェルウィ カンバホテル”だ。ここのご主人が元エベレスト登山隊のシェルパで、山岳写真、クーンブ地方の民具などが集められ展示されている。このホテルはまた、カラパタール、エベレストベースキャンプに向かうキャラバン隊の大きな基地ともなっている。

ナムチェバザール入口にて ナムチェバザールの集落(山の上から見たところ)
続く