紀行
弓削 玄雄 |
![]() このトラックは、U字谷, 湖、幾つもの滝、峠越えなどを結んで、距離54km、標高差1,154mのあいだに延びている。ここの風物の美しさは言葉では表現できないほどで、“The finest walk in the world”と称されている。 世界中のトレッカーが一度は歩いてみたいと願うこのミルフォード・トラックを、随分以前から私も歩きたいと思っていた。しかし、仕事が現役の間は、ツアーが催行されるベストシーズンに休みが取れなかった。 3泊4日で歩くこのトラックは、気ままに歩くことはできない。自然保護の見地から1日の入山者数が決められていて、ガイド付ウオーク40人、フリー・ウオーク40人。事前予約が必要で、他にもいろいろ制約がある。キャンプはできず、山小屋での余計な滞在も禁止、期間はおよそ10月下旬から翌年の4月上旬まで。コースは下記の一方通行のみ。おまけに、年齢制限もあり10歳以下、70歳以上は原則として認められないが、最近のウオーキングの実績で73歳の私も参加できた。 朝日サンツアーズが、この3泊4日の全行程を織り込んだツアーを、シーズンに4回催行している。今回このツアーに参加し、平成19年11月23日〜12月2日の旅程の中で歩いてきた。ウオークの形態は、先頭とシンガリに現地ガイドが付き、マイペースで歩く団体ウオークのようなフリー・ウオーク。ロッヂ出発もばらばら、到着もばらばらで、3日目の峠到着時刻は先頭とシンガリでは4時間以上の差があった。 ![]() この夜は、これからのウオーキングについてのミーティグと今回の参加者の自己紹介や親睦を深めるための催しがあった。 第2日目(11月27日・火曜、晴れ) 午前8時30分ロッヂ出発。今日から本格的トレッキング。クリントン川沿いの深いU字谷の原生林の中を、両側の絶壁や多くの素晴らしい滝を眺め、野鳥の声を聞きながら歩いた。原生林にはブナ、赤ガシ、コケ、シダなどが茂り、地表はコケに覆われ、樹木にもヒゲのようなコケがぶら下がっていた。クリントン川の清流にはマスが泳ぎまわっていた。途中、クリントン小屋で休憩、ヒレレの滝の前の小屋で昼食。その後、ヒドン湖に立ち寄る。クリントン川を眺めながらポンポローナ・ロッヂ、午後2時30分到着。海抜420m、歩行距離約18km。 ![]() 第4日目(11月29日・木曜、雨) 午前7時20分ロッヂ出発。今日はトレッキングの最終日、サンドフライ・ポイントまでのコース。アーサー川に沿って、珍しいシダなどに囲まれた原生林の中の少しアップダウンのある下りの道を、雨なのでただ黙々と歩く。ボートシェッド小屋でお茶。マッケイ滝、奇岩ベルロックなどを見ながら下る。岩を伝うように流れ落ちるジャイアントゲイト滝の前の小屋で昼食。アダ湖を右に見ながらサンドフライ・ポイントへ。ここがミルフォード・トラックの終着点。午後2時40分到着。海抜0m、歩行距離約25km。 ![]() 翌日は、参加者全員で約2時間、ミルフォードサウンドをタスマン海の入口までボート・クルーズ。クルーズ終了後、バスでア・テナウに行き解散。 このトラックは、”ブッシュ”と呼ばれている亜熱帯のジャングルのような原生林の中にあった。ここは世界で最も降雨量の多い地域の一つで、ブナ・赤ガシ、シダ・コケ類・その他の植物がうっそうと生い茂っていた。強烈な晴れ男が行ったためか、最後の4日目を除いて天候には恵まれ、マッキンノンパス越えの日は快晴だった。この地でこのような好天に恵まれるのは5%の確率だそうだ。 歩く道はほとんど人の手が加わっていない自然道で、岩、大きな石がゴロゴロしていて、歩きやすい道ではないが魅惑的なトレッキングコース、世界中のトレッカーが憧れるのもうなずける。距離は54kmと書いてあったが、実際に歩いた距離は、私の万歩計では合計 65kmだった。 また、途中のロッヂが素晴らしく、部屋は6人の2段ベッドだが、一杯やりながら談笑する広いロビーはちょっとしたホテル並み。温水シャワー、強力な乾燥室付き。夕食は肉、魚の2種類の中から選べ、前日の夜の申し込み。 現地ガイドはフレンドリーで、至れり尽くせりの世話をしてくれた。おまけに、日本女性(町田市出身)が1人いて、これも多いに助かった。 今回、ガイド付ウオークの参加者は、日本人11人(添乗員を含む)、オーストラリア人28人の他、ニュージーランド、アメリカ、カナダ,韓国、香港からの人を加えてなぜか50人だった。 平成19年12月9日記 神奈川県医師会報・平成20年3月号に掲載 |