紀行

高所のウオーキング


弓削 玄雄
 
 平成23年6月初旬に中国・チベット自治区を旅し、省都のラサ( 標高3650m、富士山より126m低い )で3泊した。この際、高所での早朝ウオーキングを2回試みた。
 ラサへは青海省の省都・西寧から青蔵鉄道の特快( 特別快速? )の軟臥車( 1等寝台 )で行った。西寧( 標高2275m )・ラサ( 標高3650m ) 間1956kmを結ぶこの鉄道は、平均標高4000m以上の高所を走り、最高標高地点はタンラ峠の5072m、世界で最も高所を走る列車である。
 丸一昼夜乗車したこの列車は、高所を走るため列車内は酸素と気圧が調整されていて、各寝台・座席には酸素供給口が設けられているので何時でも酸素を吸うことができる。このため列車内では高山病の心配はほとんどない。
 ラサ駅に着いてプラットホームから大回りして( 2〜300m )駅前広場のバスまでスーツケースを転がして歩いたら、息切れがし呼吸がすこし苦しくなったが、まもなく治った。

 18人のツアー客は6〜70代の人ばかりだったので、すでにこの時点で3〜4人にチアノーゼ ( 血液中の酸素濃度が減少すると口唇部が青色になる ) が診られた。
 このツアーは高山病対策として、まず、500ccの缶ビール大の酸素ボンベが一人1本づつ配られていた。そして、ラサ滞在期間中、医師が同行しますとうたい、観光中もバスの中に医師らしき若い人が乗っていた。
 血圧と指先で血中酸素濃度を測り、高山病の恐れがある7〜8人 が別の医師らしき人からホテルで点滴を受けたそうだが、わたしは現場に居なかったので詳細は不明。
ポタラ宮殿
 地表では空気中に約21%の酸素が含まれている。この酸素も高度が1000m上がる毎に、約10%づつ少なくなる。3650mの高地では空気中に含まれる酸素量が地表の約63.5%(3分の2以下)しかないので、普通の呼吸では酸素摂取量が少なく苦しい。それゆえに空気を多く吸い込んでより多くの酸素を取り込まねばならない。
 ラサ到着翌朝の日の出は午前7時。まだ市内観光もしていないのに、朝食後( 午前7時15分 )、地図だけを頼りに、ホテルから東のラサ旧市街の へそ のジョカン( 大昭寺・世界文化遺産 )とその周りのバルコル( 八角街 )へのウオーキングを試みた。ラサ市内は中国の都市にしては珍しく、きちんと区画整理され、道路も広くて分り易く、ゴミも落ちてなくきれいだった( 旧市街のチベット族居住地を除いて )。

 ジョカン門前の広場には、朝早くから五体投地を繰り返す祈りの人々が数十人にもいた。
それほど迷わずに、1時間45分で目的地まで往復( 約8km )することができ、午前9時にはホテルに帰り着いた。
 初めは呼吸を整えながら慎重にゆっくりと歩いた。その後、ウオーキングで長い急坂を上がる時と同じ要領で、息を思い切り吐き出しながら歩いていたら、現地の人と同じように歩けるようになり、終わりの頃は現地の人を抜いて歩けるようにもなっていた。

 翌朝のウオーキングは、ポタラ宮( 世界文化遺産 )・ポタラ宮前広場と公園・薬王山外周とポタラ宮から市内の西へ、新市街をぐるーと楕円形に約8km歩いた。この日は昨日よりずっと楽に歩け、ホテル出発の時間的制約がなければ、まだまだ歩けた。このような高所で2日連続で8kmづつ歩いたのは初めてだが、馴れれば歩けるものである。