紀行文
2012年3月01日
池 内 淑 皓
[ウエリガマを訪ねる] 地球の歩き方‘11〜’12「スリランカ」(ダイヤモンド社)より引用 ウエリガマの町 ウエリガマの海岸 海岸のレストランで、偶然佐藤さんに出会う アイスクリーム屋さんで奥さまと ゴールの漁港にて アウトリガーの漁船 鰺?の水揚げ 突然現れた 新婚カップル 花嫁さん(多分タミル人と思われる)
「?今日はどこへ行こうかな」、とガイドブックをめくっていて、”スリランカと日本をつなぐかけ橋”のコラムに目が止まった。
佐藤利春さんと言うJICA(国際協力機構)ボランティアの方で彼は、はるばるこの地に来て、この国のために自分の技能を役立てているという。
ゴールから東へバスで小一時間程にある「ウエリガマ」という町で、ココナッツを使ったゼリーを作って、販売しているというお店を訪ね、そのゼリーを食べに行くことにした。
ウエリガマへは列車が走っているが、運行本数が少ないので、バスターミナルからバスで行くことにした、バスの運転手に「ウエリガマ」といえばきちんと目的地で降ろしてくれるから大丈夫だ。
バス停が鉄道駅前で、オールドストリートと云うこの町唯一の繁華街を散歩しながら海岸に出る。目指すお店は、砂浜に一つだけポツンとコンテナーが置かれた感じで在った。扉が閉じられていて今日はお休みのようだ。
仕方なく南国特有のヤシが茂る波打ち際を散歩する、全く静かで人気がない、椰子の木に腰掛けて、打ち寄せる波の音を静かに聞く、島崎藤村の”椰子の実”の詩を思い出させてくれるぴったりな雰囲気だ。
仕方なくお昼を食べて帰ろうと、向かいにあるホテルのレストランに行き、常食の「デビル」を注文する。「ビーフ、チキン、マトン?」と聞いてくる、マトンは初めてだから注文してみる、ライオンビールとマトンのデビルは、絶妙な組み合わせで”メチャ旨い”。私は思わず厨房に駆け込んで、ラサイ!(おいしい)と大声を出して、コックさんにチップを差し上げた、彼も大喜びで、ボホーマ ストウティー(ありがとう)と嬉しそうに受け取ってくれた、この瞬間が私にとってはとても嬉しい一瞬なのだ。
ふと外に目をやると、レジ袋をぶら下げた日本人が歩いているではないか、思わず「佐藤さんですか?」と声をかけた。ゴールの先、ウエリガマで日本人が一人、うつむきかげんにレジ袋をぶら下げている人は、まず居ないはず。「ハッ」と顔を上げて、「そうです」と答えてくれた。あとは地球の歩き方「スリランカ」のガイドブックを見せれば万事了解だ。
ウエリガマ駅前のアイスクリーム屋さんに奥さんを呼んで、しばし歓談。キングココナッツ(現地ではテンビリと言う)を原料に甘味の利いたゼリーを販売しているのだと云う(写真でコラムの記事を参照)、佐藤さんの専門分野は”食品の加工・流通”で、これを武器にこの地で現地人の生活向上を目指して、指導しているのだと胸を張って答えてくれた。もちろん私がここを訪れた事を、殊の外喜んでくれたし、私もここまで来た甲斐があった。
別れ際に、サンプルを三つ頂いて、滞在しているゲストハウス近くのミニショップに持って行き、PRすることを約束してバスの人となった。
ゲストハウスへの帰り際に、ゴールの漁港に立ち寄って、魚の水揚げを見学する。木製のアウトリガー付きの小舟に乗って「かつを」、「鯖」、「鰺類」を漁獲していた。
仏教国であるこの国は、殺生を嫌う。インドのカースト制度程ではないが、この国にも見えないカーストが存在している、漁師達は魚を殺生するから下層の人達であると見下す、そのくせ上流階級の人達はフィッシュカレーを好んで食べる、命がけでインド洋に漕ぎ出す彼らを見ると、何とも可哀想な気持ちで胸が一杯になる。
ゲストハウスに戻って、佐藤さんのゼリーをなじみのお店に持って行き、試食してもらった。にっこりと愛想の良い答が帰って来た、名刺を渡してあるから問い合わせがゆくかも知れない。気が変わらないうちに、フィッシュカレーを注文して、テイクアウトにしてもらった。
明日は日本に帰る日、インド洋をこの世の見納めに、残りのビールを飲むために海岸に出掛ける。また要塞に腰掛けて晩酌のビールをちびちびやっていると、派手な車に乗った新婚カップルがやってきた。真っ赤な民族衣装を着た幸せそうなカップル。新婚旅行のついでに立ち寄ったとのこと、傍らにいたおじいさんが下卑た声で私に囁く「真っ赤な衣装は、二人がまだ新婚初日なんだよ!」だって、翌日になると花嫁は白い衣装に着替えると云う、赤は当日だけ着るのだと言っていた。
そしてまたひととき静寂が訪れる。と、また確実に日本人の女性が一人こちらに向かって歩いてくる。彼女も驚き、私も驚く、これは事実なのだ。一人で旅をしているといっている、宿屋を聞いたらまた驚きで、私の泊まっている同じ「カリッズ」なのだ。
彼女にお兄ちゃんのお店からビールを持ってこさせて、やっと飲む相方が見付かって日が落ちるまでコンパ。いろいろな話をしたが、”旅屋”((たびや)一般に趣味として長期間独り旅をする人達))の仁義として、身の上話は、双方共にタブーなのだ。次号をお楽しみに。 続く