寄り道さん歩

 寅さん歩 その2

都電荒川線沿線 


平野武宏

都電荒川線路線図

 2012年(平成24年)8月 生まれ育った湘南の地を離れた湘南の寅次郎、東京都豊島区北大塚に転居し、葛飾柴又の寅さんと同じ東京都民となりました。
新居近くの大塚駅は都電荒川線とJR山手線が交差しています。
寅次郎、大塚移住を決めた時点から都電荒川線に興味を持っていました。
路面電車は鎌倉と藤沢を結ぶ江ノ電で見慣れていましたが、1両編成のチンチン電車は珍しかったです。三ノ輪橋から早稲田まで総延長12.2kmに29の停留場があり、時速14.6kmで走る姿は下町情緒たっぷりです。
都電の歴史を勉強すると100年の歴史を持ち明治・大正・昭和と東京の交通・経済を支え、最盛期の昭和30年代には41系統の都電が都内を走り回っていたそうです。
自動車交通の増加による道路渋滞の慢性化で昭和41年段階的廃止の方針が発表され、5年程度で全廃されることとなりましたが、2系統が代替交通機関の未整備で最後まで残り、当時の美濃部都知事により「あえて廃止する必要もない」と急転、存続となったとのことです。生き残った2系統が統合して今の荒川線となりました。
昭和53年にはワンマン化が完了。車掌が2回鳴らしていた発車合図の「チンチン」は運転手がドアを閉めると自動的に鳴るそうです。社内ベルが鳴るのは全国の路面電車でも荒川線だけになったそうで、貴重な鉄道遺産ですね。
型式は古いものばかりと思っていましたが、現役車両は4種類で7000形の最古モデルから9000形の平成19年登場のものまであり。
平日は5〜6分・休日は3〜6分間隔で運転され、次から次に違った形の車両に会うことができます。さっそく1日乗車券400円(1回は160円)で乗り降りしましたが、今度は「寅さん歩」として沿線の寄り道を楽しむことにしました。

三ノ輪橋(荒川区)〜荒川一中前

三ノ輪橋停留場
スタートは東の起点の三ノ輪橋停留場(荒川区)です。「駅」と言わないで「停留場」という昔を残したひびき呼び方に寅次郎 気に入りました。この文での見出しの駅名は停留場を省略しています。
無人のレトロな三ノ輪橋停留場脇にはボランティアの方々がお世話をしているバラが春・秋に楽しめます。荒川線沿線は東京を代表するバラと桜の名所で花いっぱいです。
隣接する「ジョイフル三の輪商店街」には昔ながらのお店・飲食店が約140軒並んでいてパチンコ屋はありませんが、銭湯がありました。
アーケードは次の荒川一中前停留場まで約500m続いています。
訪問した当日は荒川区・北区主催の「都電荒川線沿線ウォークラリー」が開催され、「つまみぐい」と称して参加者にジョイフル三の輪をはじめコース上での商店街の振る舞いがありました。おにぎり、味噌汁、あんみつ、あんころもち、みそおでん、餃子、お茶、漬物、バナナ、コーヒーとラッキー!でした。

周辺には「円通寺(えんつうじ)」(上野戦争で敗れた彰義隊士の放置遺体を埋葬、弾痕が残る上野の黒門を保存)や「浄閑寺」(安政の大地震で投げ込まれるように葬られた吉原の遊女や関東大震災・東京大空襲での遊女が埋葬され、新吉原総霊塔を建立)などの下町の心意気を感じさせる史跡や千住大橋が近くにあり、芭蕉の旅立ちの地という石神様を祀る「素盞(すさの)雄(お)神社」があります。
懐かしい路地裏を再現した「荒川ふるさと文化館」も見落とせない郷土資料館です。
「荒川総合スポーツセンター」は「東京球場」の跡地と聞き、若き頃の寅次郎、取引先との野球試合でランニングホームランを打った栄光の地。但し、その後ではセンター守備でトンネルをして相手にランニングホーランを献上した屈辱の地。功名を独り占めしないで相手への感謝の気持ちを忘れないのが寅さん流です。

南千住仲通りからJR南千住駅近くには「回向院(えこういん)」(江戸時代の小塚原(こづかっぱら)処刑場跡で鼠小僧次郎吉や明治の毒婦 高橋お伝、安政の大獄で処刑された吉田松陰、橋本左内が眠っています)蘭学者達の「解体新書」の翻訳のきっかけになった場所との案内の碑があり。入口には小学生誘拐事件の被害者(吉展地蔵尊)もあり、悲しい事件を思い出しました。
隣にはJRに分断され独立した「延命寺(えんめいじ)」(刑死者を弔うために建立された高さ4mの首切り地蔵があり。優しい顔のお地蔵さんは東日本大震災で腕が落ち、胴もずれたそうですが、その後の寄付で修復)隣は台東区なので東京スカイツリーが各所で見えました。

荒川区役所前〜荒川二丁目〜荒川七丁目

荒川区役所前停留場で下車し、荒川区役所先の明治通りを挟んだ反対側には「三(みつ)峰(みね)神社」(耳無不動があり、耳の病にご利益があると聞き、今後お世話になるとお参り。病が治ると穴をあけたお椀を奉納する習慣とのことで、脇にはひもで結ばれた赤いお椀の山がありました)
明治通りを渡ると超ド級チャーハンの店「光栄軒」(チャーハン550円を注文したらそのボリュームにびっくり。これが普通盛で2.5合だと言う。大盛は4合、特盛は5合と聞き、さらにびっくり)
大盛・特盛を残した方は東日本大震災へ寄付をいただきますの張り紙があります。完食の寅次郎 また食べてみたくなる味でした。普通盛りで・・・
満腹で荒川二丁目停留場まで歩くと停車場の脇の高台は「荒川自然公園」(隣の下水道局水再生センターの上部に人工地盤を造って設置された荒川区立最大の公園。ハクチョウが泳ぐ池の周りは紅葉した木々が美しかったです。草や蝶の自然観察や各種運動ができる施設や交通園や児童遊園もあり)

町屋駅前〜町屋二丁目〜東尾久三丁目

新しい交通網は荒川線に合わせて敷設されています。三ノ輪橋停留場は少し離れていますが東京メトロ日比谷線三ノ輪駅やJR南千住駅があります。町屋駅前は京成本線と東京メトロ千代田線が交差しています。案内本によると町屋は焼肉屋や韓国家庭料理のミニコリアンタウンとのこと。空腹時に来てみたい場です。
東尾久三丁目停留場からは旭電化尾久工場跡地に造られた「尾久の原(はら)公園」(約6万uの広大な敷地を持つ荒川区唯一の都立公園(全国有数のトンボの生息地だそうです)があります。後ろは隅田川、隣には首都大学の荒川キャンパスがあります。
今回は入りませんでしたが、近くには世界初のぬりえ専門美術館「ぬりえ美術館」があります。(平日の午後開館なので注意)

熊野前〜宮ノ前〜小 台〜荒川遊園地前〜荒川車庫前

荒川車庫
歩いていたら熊野前停留場近くに出ました。ここは日暮里・舎人(とねり)ライナー 熊野前駅と交差しています。知りませんでしたがこの線は日暮里と見沼代親水公園(足立区)97kmを20分で結ぶ都営線とのこと。
宮ノ前停留場はその名の通り「尾(お)久(ぐ)八幡(はちまん)神社」(鎌倉時代末期に創建の石造りの鳥居や長い尾が流れる雲のような形の美しい姿の狛犬がいました)の前にあります。
荒川遊園地前停留場は大正時代には大人のヘルスセンター、今では子供たちの歓声が響く遊園地「あらかわ遊園」前です。
荒川車庫前停留場の前には「都電おもいで広場」(全盛期に活躍した旧型車両2台が展示。開場は土日祝のみですが、外から見えます)と「荒川車庫」(都電の基地と車両の安全点検・調整・整備を行っていますが、一般公開は6月の「路面電車の日」と10月の「荒川線の日」だそうです)があります。


梶 原(北区)〜栄 町〜王子駅前〜飛鳥山

王子の北とぴあからの展望
東北・上越新幹線、京浜東北線、宇都宮線、高崎線、湘南新宿ラインのJR各線と東京メトロ南北線が交差する王子前駅停留所で荒川線は大きく直角に反転して北区から豊島区に向かいます。
北区のシンボルタワーの「北とぴあ」(17階展望ロビーからは東京スカイツリー・隅田川、荒川、埼玉副都心、筑波山が見えます)
人と車で混雑するJR王子駅の裏には自然が残されています。「王子神社」(都立天然記念物の大銀杏がある徳川吉宗ゆかりの神社)、「音無親水公園」(江戸情緒豊かな水と緑の公園 音無川とは石神井川のこと)、「王子稲荷神社」(1000年の歴史を刻む関東一円の稲荷神社の総社で、かっては狐も参詣したという。大晦日の夜には仮装した狐の行列で新年を祝うそうです)、「名主の滝公園」(王子村の名主の庭園を都が整備)と見所が多いです。
JR王子駅裏にある落語「王子の狐)にも登場する玉子焼きのお店「扇屋」と朝10時から営業のおでん店「平澤かまぼこ店」は寅次郎ごひいきのお店となりました。
「飛鳥山公園」(将軍吉宗が江戸庶民のお花見の地にとヤマザクラを植えたそうです。以来、江戸近郊随一の桜の名所です。また実業家 渋沢栄一が住んだ地で渋沢資料館、紙の博物館、北区飛鳥山博物館の3つの博物館があります)
桜の季節にぜひ来たい場所です。秋の紅葉もなかなかのものです。
飛鳥山停留場から16分歩きますが、「旧古河庭園」(陸奥宗光の別邸で次男が古河財閥の養子となり古河家が所有、その後、国指定名勝となったバラの洋館と日本庭園)の立ち寄りをお奨めします。JR駒込駅からも歩いて12分です。

滝野川三丁目〜西ヶ原四丁目〜新庚申塚(豊島区)〜庚申塚

西ヶ原四丁目停留場と新庚申塚停留場の間には「妙行寺」(東海道四谷怪談のお岩さんのお墓。明治42年に四谷からここに移転)お墓の前の案内板には上人による法華経の功徳で一切の因縁が取り除かれているそうです。お岩さんのお墓のすぐ近くに浅野家正室達のお墓(供養塔)があったのには驚きました。浅野家の菩提寺だそうです。寺の入り口にはウナギの供養塔もあり。大好物の寅次郎、しっかりと手を合わせお参りしました)
近くには「おえんま寺」と親しまれ、大迫力の閻魔様が鎮座する「善養寺」もあります。
庚申塚停留場では「とげぬき地蔵にお越しの方はここで降りてください」とのアナウンスがあります。停車場名の庚申塚は都電からの巣鴨地蔵通り商店街入り口の手前にある「猿田彦大神庚申堂」によります。中山道の道案内の神として真っ赤な衣装の猿田彦がお迎えしています。
「高岩寺 とげぬき地蔵」(おばあちゃんの原宿として4の付く日は縁日で大賑わい。ご本尊のとげぬき地蔵「正式には延命地蔵尊」は高岩寺の本堂にある秘仏。境内にある「洗い観音」は水で清めて洗うと痛みや病気が治ると行列を作り、ご本尊より人気があります)寅次郎は人の少ない朝の散歩でお参りし、頭と足を中心に全身をお清めしています。

元祖巣鴨のお地蔵さんとはJR巣鴨駅からの巣鴨地蔵通商店街の入り口にある「眞性寺」にあります。中山道の旅人を見守ってきた江戸六地蔵のひとつです。とげぬき地蔵が有名になりすぎてこちらにお参りする人が少なく残念です。高岩寺裏側の白山通りの信号を横断すると「染井霊園」(高村光太郎、智恵子、二葉亭四迷などが眠る桜の名所)、「慈(じ)眼寺(げんじ)」(芥川龍之や谷崎潤一郎が眠る)、「本妙寺」(名奉行の遠山の金さん、北辰一刀流開祖の千葉周作が眠る)のお墓参りが出来ます。染井霊園の管理事務所に行くとマップがあります。
庚申塚停留場構内にある甘味処「御代家(みよけ)」で一休み。お食事セットメニューにはおはぎがついています。荒川線1日乗車券を見せると50円引き。

巣鴨新田〜大塚駅前〜向 原

大塚駅前停留場
大塚駅前停留場は山手線と接続する唯一の停留場です。昭和の初めには約260人の芸者衆がいた花街として栄えた三業地(芸者置屋・料亭・待合)の面影が残る場所もあります。
駅前には巣鴨村の鎮守様の「天祖神社」(鎌倉時代末期建立)の鳥居が見え、秋の例祭は各町内のお神輿が宮入りします。入り口の狛犬は子供に乳を与えている子育て狛犬。荒川線は大塚駅前で又直角に反転し池袋方面に向かいます。
この辺りからはビルが立ち並び沿線風景が一変します。向原停留場までの沿線は春・秋には住民の手で植えられたバラが咲き乱れ、都内で一番バラの品種が多い遊歩道にもなっています。
向原停留場近くにある「造幣局東京支局」には造幣東京博物館があり、無料で見学できます。文化勲章や国民栄誉賞はここで作っていました。

東池袋四丁目〜都電雑司ヶ谷

東池袋四丁目停留場では「サンシャイン60にお越しの方はここで降りてください」のアナウンスがあります。「サンシャイン60」はかっての巣鴨プリズン跡に昭和53年に建てられた池袋の60階建ての池袋のランドマークです。展望台、水族館、プラネタリューム、ショッピング街、飲食街があり楽しめます。展望台からの眺めは雄大です。都電雑司ヶ谷停留場の脇は「雑司ヶ谷霊園」です。広大な緑地の中には数多くの文化人・著名人が眠っています。ここも管理事務所でマップをもらいます。
夏目漱石、竹久夢二、小泉八雲、永井荷風、サトウハチロー、尾上菊五郎、ジョン万次郎など寅次郎 約2時間かけてお参りしました。
ここからは歩いて「雑司ヶ谷旧宣教師館」「大鳥神社」に立ち寄って鬼子母神に行かれるのも良いと思います。荒川線を挟んで大鳥神社の反対側には「懐かしい水車がある田舎の光景」が見られます。地元の篤志家が変わりゆく池袋に昔の風景を残そうとしたものだそうです。

鬼子母神前〜学習院下〜面影橋(新宿区)〜早稲田

鬼子母神前停留場前から歴史を感じさせる「ケヤキの参道」・「雑司ヶ谷案内処」(漫画家手塚治虫が住んだ並木ハウスの別館)に立ち寄り、「鬼子母神堂」に向かいます。お堂の扁額は鬼に角がない字が使われています。パソコンでは作れないのでこの文面では鬼の字を使っています。鬼子母神はもともと悪鬼だったのですが、お釈迦様によって仏法に帰依して安産・子育ての神となったそうです。本堂の中に入れる機会がありましたが、そこで見た鬼子母神像は鬼形ではなく幼児を抱いた菩薩の姿をしていました。

近くにある「法明寺」は鬼子母神の本坊に当たるお寺で日蓮上人を偲ぶお会式で行う「万灯行列」は江戸時代から宗派を超えた町ぐるみの人たちのお祭りになっているそうです。
千登世橋の下をくぐると学習院下停留場です。上の高台には「学習院大学」があります。大学構内は手続きを行えば見学することができます。院長だった乃木希典が住んだ「乃木館」や堀部安兵衛が高田馬場の決闘のあと刀を洗ったと言われている「血洗いの池」があります。(学習院大学はJR山手線目白駅からすぐの場所にあります)
明治通りと新目白通りが交差する高戸橋(下は神田川)を直角に曲がると新宿区に入り、面影橋停留場があり、脇にある「神田川沿いの桜並木」は桜の名所で、新宿区との区境ですが豊島区制50周年を記念し、区民の憩いの場所として豊島区により整備されました。案内板によると延べ830m、染井吉野桜77本、つつじ880本、山吹230本。花の時期にもう一度来てみたい散歩道です。

早稲田停留場
染井吉野桜は豊島区の木、つつじは豊島区の花、山吹は狩りに出て雨に遭遇し蓑を借りようとして、その家の娘から黙って1枝の山吹を差し出され、怒って帰り、後で意味を知らされ自分の無学を恥じて、歌道に励んだ太田道灌 山吹の里伝説の地とのこと。
終点の早稲田停留場からは都の西北「早稲田大学」はすぐです。構内では食事や散策が楽しめますし、周辺にも学生達の集う食事処もたくさんあります。
神田川沿いをさらに歩くと文京区に入り「新江戸川公園」・「関口芭蕉庵」・「椿山荘)庭園」・「講談社 野間記念館」などの見所があります。
荒川区・北区・豊島区・新宿区を走り、終点まで通しても約50分のチンチン電車の旅ですが、各駅には季節ごとに異なる見所や寄り道してみたい場所が多くあります。
都民になってわずか5ケ月という都の新参者の寅次郎ですので、沿線の見所にはまだまだ訪れていず、漏れている場所がたくさん残っています。ご容赦ください。
                                                   平野寅次郎 拝