随筆


2020東京オリンピック開催決定に寄せて(3)

江尻 忠正


競歩競技は、歩く競争で「走ったり飛んだりしてはならない」との規則がありレース中の歩行を審判員が審判し、歩行のルール違反や疑わしい歩行には、違反認定しで失格とする規則が適用されます。
江尻 忠正さん
 私の選手時代は、日本の競歩の草分け時代とも言われ、競歩競技自体が認知される状態になく、指導の役割を担える人は皆無と言える状態でした。「国際競技で適用される競歩競技の基本歩形」の認識が明確でない状態だったので、先輩と私の2人がヨーロッパの競技会に参加して直接指導を受けるため武者修行に派遣されました。試合参加、歩行の認定方法、トレーニング方法、競技方法などの指導を受けて帰国したことが有りました。その時の報告が、その後の日本での競技の運営・判定の参考になり標準化の推進に役立って体制が整なったのではと考えています。

 従来は「走った・飛んでいる」の判定の個人差や誤審防止のため判定項目(10項目以上)を増やして対応していた判定方法を、現在は国際ルールの「体重の掛っている膝は伸びている」と「どちらかの足が地面に着いている」の2点判定に統一され、従来重視された歩く姿勢の良否や腕の振りの制約が緩和されたことと、コースの設定が、片道コースや折り返しコースから、2~5kmの周回コースが多くなったことで審判が容易になり、選手自身のトレーニングや競技方法にも影響しスピード化が進んでいます。
 近年の競技は世界中の情報を駆使し、卓越したコーチの指導を受け、身体能力を鍛え・競技技能を磨くことが当たり前となっています。若い時から英才教育を受け育つ選手が多くなり、大幅に選手層の若返りが進み日本でも記録が私の現役時代より10km で10分近く速くなりました。近い将来、国際大会で好成績が期待出来る日も近いのではと考えられています。
 
東京五輪陸上選手名と
江尻さんのブロンズ像

身震いして喜び合った懐かしい私達の現役時代と現在の選手の考えや社会状況、多くの人が取組むスポーツのトレーニング、指導者、アドバイザーの対応に時代の懸隔を感じています。7年後の2020 東京オリンピックの選手は、現在の中学高学年〜20歳台前半が主体で活躍する年代と考えています。周囲が大きく育てる環境を整え、大成を急ぎ過ぎないように、「目標を明確に、着実に積み上げる」取組に心掛けることを期待したいと思っています。オリンピック選手として参加できる人数は少数に限られています。選ばれるためには目的を見据え、怪我や体調不良に留意して取り組むことが大切と考えています。選手も関係者も最大限に留意して目標達成に精進されることを願っています。
 東京オリンピック後の私は、加齢と共に現役時の身体酷使や特定部位の無理な鍛錬強化のケア不足の後遺症か、筋肉の衰えと共に、身体各部位のバランスに狂いが生じ、身体の特定部位に痛みやしびれ・痙攣が生じることが多くなりました。今迄の日常ケアの不足を自覚しながら、病院・治療院の日参が通常化している状態で、如何にも私らしいことと苦笑しながら治療を進めています。
 80歳に近い今日まで私の人生のいろんな場面で、裏方として見守って頂いた多くの人達の存在が大変うれしく感じ「俺は一人ではない」と勇気を頂いたこと、親身に忠告や指導頂いた人達によって支えられて今日のあることを感謝しています。
 終戦から10年、昭和30年代は、みんなが復興に躍起になっていた時代に、みんなで支え合い人間的な温もりで支えて頂いた多くの人達の居たことを決して忘れてはならないと思い、良い人達との巡り合えたことを大変うれしく思っています。(了)