羽黒山修験の道


小塚 四寿

 以前から東北地方の大会を歩いていて気になるものがあった。それはカラフルなTシャツで、背中に大きな足の図柄が描かれ、その上に「歩かなければ歩けなくなる」というコピーが入ったものである。
 地味な色彩の多いウォーキングの会場で非常に目立つ。着用している方にどこで手に入るか聞いたところ、鶴岡の里山ウォークという大会で頒布しているという。欲しいけどTシャツのために山形まで出かけるわけには行かない。どんな大会か調べたところ、なんとツーデーの大会になっている。距離は一日あたり20kmと短いがこれなら山形まで足を運んでもいいかなという気持ちが湧いてきた。
 さらに、参加意欲を決定づけたのが大会の二日目に羽黒山に登る2446段の石段があると書いてあったことである。石段は苦手である。出来ることなら平地を歩きたい。しかし2446段である。好奇心と被虐趣味が刺激される。どれだけ苦しいか経験したい。そして参加を決断。Tシャツが欲しいという浅はかな物欲が、霊験新たかな修験の道を歩くという高貴な目的に置き換わった瞬間である。
 そして参加した「里山歩き2014」という大会。二日目に2446段の石段コースがあるから一日目は優しいコースかと考えていたらとんでもない山登りのコースで、おまけに山中で転倒してしまった。顔面とわき腹を強打。後ちょっとで二日目の参加が危うくなるところであった。何とか湿布と絆創膏で手当てをして二日目、羽黒山修験の道に挑戦。スタートは随神門。山門をくぐると下りの石段。あれ、登りじゃない。隣にいたウォーカーにこの下りの段数は2446段に入っているんですかねと愚かな質問を投げかける。隣の方は「含まれているんじゃないですかね。」とこちらの期待を読んだような心優しい答えを返してくれる。ちなみに鶴岡の人は日本人が富士山の標高3776mを知っているように、羽黒山の石段が2446段ということを知っている。下りきったところに国宝 五重塔。そこからが本当の登り。時間を確認。9時ちょうど。

 
国宝 五重塔の前で

見上げると確かに長い。こりゃきついなと思いながらゆっくり石段を踏みしめる。
確かにきついが一段ごとの段差は低い。多くのところは一段おきに登るのがちょうどいい高さである。だからといって決してペースを上げず、ゆっくり登る。
 石段は一の坂、二の坂、三の坂と分かれているらしいが、一の坂と二の坂の区切りはひたすら石段を見つめて歩いていたのでよくわからず。二の坂と三の坂の区切りは茶屋があるのでよくわかる。二の坂を過ぎて上を見上げると天まで続くんじゃないかと思うような石段、これは大丈夫かなと不安になる。もとより段数を数える余裕は最初から無し。
   

ところがスタートして20分くらい経過したころ、前を歩いている地元ウォーカーがもうすぐゴールだよと説明してくれる。え、もう頂上に着けるのと、うれしさと、拍子抜けの気分が半々。確かにまもなく山頂羽黒山神社に到着した。時間は9時25分正味25分の坂登りであった。ペースを抑えたのと、ウォーキング人生で最高の厳しさを覚悟していたのでそれほどの辛さは感じなかった。考えてみれば人が登れないような石段を作るわけもないので、皆さん息を切らしながら登りきっていた。
 罰当たりに石段のことしか書かなかったが素晴らしい杉並木、歴史に育まれた建造物等、見所はたくさんある。羽黒山には三神合祭殿という月山、湯殿山の神様も一緒に祭られている神殿もあるので一挙に出羽三山のお参りが出来るというメリットもある。これは余計なことだが車道も整備されてるので、自信がない方は車でお参りも出来る。
 この大会は、小さい大会で参加者もほとんどが地元の顔見知りみたいで、200名にも満たないが、家族的な雰囲気の心温まる大会であった。
 最後に、当初の目的であったTシャツは色違いで4枚も購入してしまった。