随筆

がんと人生を楽しむ


米長 修

 齢七十六ともなると、知人やその身内の方が亡くなったとか、入院したとか暗い知らせが年々増えてきます。その大半ががんで、たいていの人はがんと聞いただけで、怖気づいたりあの人はもう助からないと思いこんでしまいます。ウォーキング仲間から、あなたは朗らかだし、顔色は良いし、悪いところはなんにも無いでしょうとよく言われますが、私はがんを三回も手術して、今でもがんにかかっているとは知らないでしょう。ええっー 嘘でしょ、また冗談をと言うかもしれませんが、本当です。どうしてがんにかかっているのに平然と笑っていられるのか、それを皆さんにお話ししようというのが、この手記のテーマです。

 四十二歳の時会社の定期検診で、胃のレントゲン写真に影があるので精密検査をするように言われ、胃カメラを呑んだところ、胃潰瘍だからすぐ切りましょうと言われました。胃潰瘍なら薬で治るはずです、切るということはがんじゃありませんかというと、実はがんです、あなたは若いから転移していたら半年の命です、とまあ正直に教えてくれました。

 ここでパニックにならなかったのが我ながら立派だし、妻もあなたと一緒に素晴らしい人生をおくってきたんだから、死んでも悔いはないわと、今聞かせたいようなことを言いました。そうか、悔いはないかと思うと気持ちが落ち着きました。以来悔いのない人生を心がけています。そして早期に発見して切除すれば、がんは決して怖くないと悟りました。

 だから六十五歳の時PSAが9.7(正常値は4.0以下)になり、精密検査で前立腺がんだと言われても、早期に発見できてよかったと安心こそすれ、恐怖心はありませんでした。全摘手術してもう十年余、PSAも0.0以下が続いており完治しました。

 それから三年もしないうちに、驚くじゃありませんか、今度は食道がんが見つかったんです。胃がんのアフターケアで毎年胃カメラを呑んでいますが、引き上げる途中食道に影があるから精密検査をしたほうがいいと言われ、調べたところ食道がんが見つかりました。ごく初期なので内視鏡で切除するということで、これまた早期発見を喜んだのでした。ただあなたの食道はがんの巣になっているので、毎年切除の必要があります、切っても取ってももぐらたたきのもぐらのように、次々に出てくるのでこまめに毎年切除しなくてはなりません、ということで三年間毎年切除しました。ところが加齢のせいでがんの進行が遅くなり、ここ五年ばかりがんが顔を出さず、がんもどきの状態が続いています。早く出てきておくれと心待ちにしているのですが、なぜか顔を見せてくれません。

 どうです、皆さん。がんを持っていてもちっとも怖くないわけがわかりましたか。おかげで人生観というか、死生観というか、こうして何度も助かると、自分は目に見えない何かに生かされているのだと思うようになりました。それで悔いのない人生を送り、明るく生きるように心がけています。他人の欠点には目をつむり、良い面のみを見るようにしていると、自然に親しい仲間が増えウォーキングが一層楽しいものになってきます。ただ女性から、米長さんて素敵な方ねと、うっとり話しかけられるとき、前立腺を切ってしまったことが悔やまれてなりません。