県外会員便り

火山トリビア

田村 心一
(山梨県富士河口湖町在住)

 富士山の標高が3776mであることはご存知の通り。しかしこの数字は実測された数字ではない。剣ヶ峰の二等三角点標高は3775.63m、その北方に3776.24m標高の岩峰がある。四捨五入すればどちらも3776mだとして国土地理院は公表している。さらに2002年GPS基準点での計測は3777.5m。このように富士山は3通りもの標高を持っているが、国土地理院は混乱を避けるため?従来の変更をしないそうだ。動かざること山の如しというけれど、地球物理学上は常に変動しているわけであり、四捨五入方式は案外合理的なのかも・・。一般的に火山の一生は数十万年から数百万年といわれるが、富士山はまだ10万年の若い火山。現在の山容になってたったの1万年だ。まだまだ成長し変化する余地は十分に残している。

 成層火山は世界中に59山あり、地名に「富士」と付けた外国版ふるさと富士も数多い。北米シアトル市郊外のレーニア山はタコマ富士、フィリピンのマニラ市近郊のマヨン山はルソン富士等。ちなみにマヨンとは現地語で、美しいという意味とのこと。国は異なっても人々は成層火山特有の山形に美しさを、また山の角度に安定感を感じて安心するのかも知れない。噴火の際の火山歴や火山灰が重力のまゝに降り積もった安定感のある角度、この角度を「安息角」というのだそうだ。火山灰の形状や溶岩の質量そして気象条件などにも左右されるが、人工的な干渉は一切ない。まさに神の手に依る造形が成層火山ではないか。

 他方、カルデラ火山は阿蘇山に代表される火山である。爆発的な噴火で一気にマグマを噴出してしまい、地下の溜り地層が空になる。その上の地表部分が大きく陥没した地形がカルデラだ。カルデラとはスペイン語で鍋のことらしいが、中岳の周辺から見下ろすと全く言い得て妙、納得の地形だ。全長17kmを営業路線とする南阿蘇鉄道が走っている大きな鍋である。

 また日本で有史以来最大のカルデラ噴火は、平安時代915年の十和田噴火である。十和田湖はその際に形成されたカルデラ湖で、現在も活火山に分類されている。湖なのに活火山とは奇妙な話だが、陥没した火山が水没しているだけのこと。摩周湖や洞爺湖も同様の経緯をたどった湖、そして芦ノ湖も箱根火山の噴火によって誕生したカルデラ湖である。

 成層火山は高くカルデラ火山は沈み込んで低くなる。噴火形態の違いで正反対の地形になってしまう。大地震も大噴火も紙一重の差による地殻変動なのだろうか。地表生活者には地球深くの地殻変動など知る術もなく、運命論者にならざるを得ない。予告のない自然現象を相手に、運と不運の束の間を我々は生きている、いや生かされているのかも知れない。
(この原稿は4月に発生した熊本地震より以前に書かれたものです。 編集部)