県外会員便り

富士吉田口五合目

田村 心一
(山梨県富士河口湖町在住)

 富士山には一般登山道として、吉田口・須走口・御殿場口そして富士宮口と4本のルートがある。連絡している自動車道路は標高差があるが、全て五合目止まりとなる。その先登山道途中の山小屋他各施設への物資運搬などに、ブルドーザー道が続くが、一般の登山者がこれを利用して登山をすることは出来ない。

 現在の土木技術からすれば、さらにその先への延伸は可能とも思えるが、五合目から六合目には山体を一巡する回峰行の御中道が存在、これを越えての車両運行は許されていない。御中道は現在、大沢崩れにより消滅同然だが(一部のみ通行可)信仰上は存在。つまり五合目以上への登山は自力で歩くしかないのである。本来、富士山は修行の山なのだから。

 修験道では、五合目を天地別(てんちのわかれ)という。又「聖と俗の境」ともいって、五合目から上は信仰上人間世界ではない。大峰山奥駆けなど、修験道の「十界修行」では山岳登拝を、人間から仏にいたるまでの十段階に区分している。麓の一合目を地獄界、二合目が餓鬼界、五合目が人間界となる。そして六合目は天上界、山頂十合目で仏界になる。富士山修験道でも、山頂で極楽浄土に到達したとする信仰観念上から、同様の区分をしている。合目とは、高野山などの等距離区分した数値ではなく、信仰上のいわば観念値?であり、個人差の大きい尺度といえる。

 さて、人間界の最高所に区分された五合目、特に吉田口五合目はそれに相応しい場所だろうか?

 2015年7月1日〜9月14日の富士山登山者総数は234,217人、この内 吉田口ルートからは136,587人と、58%強を占める。この数字は、環境省が各ルート8合目に設置した赤外線カウンターにより計測、10月初旬に発表されたものである。

 登山すれば下山となる。吉田口五合目は136,587x2の登山者重量に耐えた。富士吉田市人口は50,725人(8月1日現在)だから、市人口の約2.7倍にあたる登山者が五合目を往復した。計測日数76日、234,217人が山頂をめざしたことになる。このような山が世界中探しても他にあるとは思えない。マイカー規制中であり、五合目へはバス利用のみ、バス本体の重量やディーゼル排気ガス問題、さらに登山者以外の五合目観光客(外国人観光客が大多数でしかも通年)からのゴミやし尿処理等の環境負荷にも五合目は耐え続けている。

 中の茶屋・馬返しから五合目佐藤小屋へと、自然溢れる登山道を辿って五合目の広場へ到着すると、景色は一転!そこは都会の雑踏であり喧噪の街と化している。吉田口五合目は荒廃し、疲労困憊の極だともいえる。とても人間界最高位の場所とは思えない(少し主観が強すぎるか)。県道路公社の案内標識で、天候不良などによる営業停止、つまり「通行止」の標示を見ると五合目が一息つけるなぁと、ついおもってしまうのだが、これも少し感情移入が過ぎるかな。